ミクジログ

のんびり適当ゲーム大好き人間がゲームをしながら書きたいことを書きなぐるブログ。黄色い生き物はキリンです。

『3年目の冬』何も残すものがないように

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「なんで私なの」

彼女は言った。

病院のベッドに横たわりながら、彼女はそう言いながら泣いていた。

何度も何度もオレはこの言葉を聞いてきた。

 

彼女はずっと夢を追い続けてきた。

でもそれがもうすぐ現実になりそうだったある日、彼女は突然病に侵された。

あまりにも突然、届きそうだったものは遠くへ行ってしまった。

 

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入院

微熱がしばらく続き、体が思うように動かなかったが、ただの風邪だろうと思って彼女はがんばっていた。

だけどなかなか良くなることはなかった。

あまりにも長く続いたために病院へ行ってみると、言い渡された病名は『悪性リンパ腫』だった。

彼女はすぐに入院となった。

 

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夢が叶いそうだった矢先の予想外の出来事に、彼女の精神は今にも崩れそうだった。

どれだけ涙を見たか分からない。

近くで見ているこちらも辛かった。

見ていられなかった。

 

今も彼女は泣いている。

崩れそうになる心をギリギリで守りながら、まだ夢のためにがんばっていた。

それだけが生きる希望だから。

オレは何も言えなかった。

ただ聞いていることしかできなかった。

 

彼女からのメール

彼女からはよくメールが届いた。

気が強いけど寂しがり屋なところがあって、ちょくちょくメールをよこした。

ひとりでいるといろいろ考えてしまっただろうから、話相手がほしかったんだろうと思う。

オレは毎日病院に通っていたけど、それでも頻繁にメールがきた。

 

でも入院から2年ほど経過したその日、届いたメールの内容は少しおかしかった。

 

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『検査さするくらいに悪くなりのはだうしてなの』

 

明らかに文章のおかしいメール。

打ち間違いは多かったけど、ここまで文章のおかしいメールは初めてだった。

 

『検査するたびに悪くなるのはどうしてなの』

 

彼女はそう言いたかったのかもしれない。

嫌な予感がした。

そしてそれは当たっていた。

 

神様なんかいない

あのメールから間もなく、彼女は話すことができなくなってしまった。

起きて目を開いてこちらを見ているけど、目線はどこにあるのか分からない。

話かけても反応してくれない。

もう、意思の疎通は叶わなかった。

 

この時期オレは友人に、

「祈れば治るかもしれない」

と言われて宗教の勧誘を受けていた。

祈って治るなら苦労はしないと思っていたが、できることはすべてやった方がいいのかな、とも思っていた。

その矢先の彼女のこの状態。

 

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勧誘してきた友人は、

「祈らなかったからだ」と言った。

 

祈っていればこうはならなかったのか?

すべてがバカバカしく聞こえた。

こちらが何かをしてあげないと、何かをしてくれない?

神は商売でもやってるんだろうか。

そもそもまず、なぜ彼女を病気にした?

何か彼女が罪を犯したのか?

罪を犯すどころか、彼女は他人のためにがんばっていたんだ。

 

彼女の夢は、有料老人ホームを作ることだった。

ちょくちょく聞こえてくる介護施設の事件や事故に心を痛め、みんなが楽しく安心して暮らせる場所を目指していた。

自分のリウマチだった母親を介護した経験もあったから、その道に進んだのだそうだ。

小さくてもいい、ひとりひとりが笑って過ごせるような施設を作りたいと言っていた。

 

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間もなく建物が建ち始めるという頃、彼女は病気になってしまった。

最悪のタイミング。

神様がいるというなら、聞かせてほしい。

なぜ彼女は病気になったんだ?

なんの意味があるんだ? 

 

彼女は祈っていたはずだ。

なんにでもすがって生きて、絶対に夢を叶えると言っていたんだから。

だから、「祈らなかったからだ」なんて言わないでくれ。

 

彼女はもう意思の疎通もできない。

もう泣くこともできない。

一体どれだけ悔しいだろう。

オレには想像もつかない。

ただ、悔しかった。

 

3年目の冬

風が強く冷たい。

まだまだ冬なんだから仕方ないとは思うけど、それにしても寒い。

墓に線香をあげたあと、オレは後ろを振り返って手をさすった。


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ここはとても見晴らしが良くて、ずっと外に出られなかった彼女には、広い世界が見れていいのかもしれないと思った。

 

彼女が亡くなってから3年が経つ。

長いような短いような、今だに実感のない自分には、不思議な時間の流れだった。

もしかしたら時間が止まっているのかも、と思うような不思議な時間。

彼女は結局、意思の疎通ができなくなってから1ヶ月も経たずに逝ってしまった。

 

思い残すことがたくさんあったろう。

悔しかったろう。

泣きたかったろう。

 

オレはあなたの分まで全部やってやる。

たくさん笑ってやる。

たくさん喜んでやる。

そしてたくさん泣いてやる。

何も残すものがないように。

 

だから笑いながら、呆れながら見ててね。

また会いにくるよ。